特別館長の言葉
2025年03月01日 【ロマンティックな飛翔-酒と詩人と人生と-前橋文学館収蔵資料展】ごあいさつ
酒は人を溺れさせるものではない。人を呼び覚ますものだ。翌朝になれば誰でも分かる。
神事に酒が登場することでわかる。正月に、結婚式に、棟上げに、あらゆる場面に祝い言葉と寄り添うことで分かる。
嬉しい時のふるまい酒は、ふるまい言葉を伴うのだ。混じりけのない、新鮮な美味しい新酒の詰まった樽には、新鮮な言葉もまた詰まっているのだ。それが、皆んなにふるまうということだ。
表現にとって酒は親子でも兄弟でもないだろう。恋人、悪友、親友に近いかもしれない。今回の展示は、表現と酒という関係がどのような付き合いであったのかを探る試みだ。
酔うように楽しんでいただければ幸いです。
2025年02月04日 【文学館から、文学環へ】特別館長の言葉34
文学館同士の連携、博物館、図書館、美術館、学校、駅、郵便局、商業施設、本屋、劇場、ホール、商店街、その他、街全体との連携によって「詩のまち」の市是のイメージを拡大させ、文学館が提唱型の姿勢を見せる。
館としての文学館から、繋がりの輪をひろげる文学環へ。
2024年10月05日 【現在(いま)を編集する-月刊「新潮」創刊120周年記念展】ごあいさつ
一冊の雑誌の歴史から、何を感じ、何を学び、何を継承し、変容し、生かすのか。雑誌という生き物の有り様を俯瞰する事で、現在がはっきりと姿を現す。その姿は、きっと文芸というジャンルを遥かに超えた地平を顕在化しているに違いない。その意味では、月刊新潮展は紙媒体の明日を示す重要なイベントになる事だろう。
雑誌という紙媒体の乗り物が、文学館という乗り物に乗り換える。そうする事で新たな情報が生まれる。その窯変した情報を楽しむ事で、新しい表現媒体をイメージしてみる。見る体験の中からそんな動きが生まれたら面白い。展示を楽しんでいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
2023年06月10日 【フットノート−吉増剛造による吉増剛造による吉増剛造】ごあいさつ
常に、詩人の優れた感覚、感性は、時代の先端、進む方向性を掴みとっている。一人の詩人の詩業を探索すると、時代の空気とその先を知ることになるのだ。吉増剛造展は、個人の仕事から時代へと流れる激流を目撃する事になるだろう。
吉増剛造さんの事を、私はいつも極北の詩人と勝手に命名している。先端を走り一度も止まらず突き進む。最近の仕事は、ついに冊子本から飛び出して、印刷不可能な、書くというライブを見せるような世界に突入している。 誰も到達しなかった地平に一人佇んでいるのだ。本展は、そんな厳しく優しい詩人の仕事の一端を展示とパフォーマンスにより展開している。展示もライブしているのだ。目撃して楽しんでいただければ幸いである。
2023年03月04日 【世界が魔女の森になるまで ー 第30回萩原朔太郎賞受賞者 川口晴美】ごあいさつ
今年で30年を迎えた萩原朔太郎賞の受賞作が、川口晴美さんの詩集『やがて魔女の森になる』に決まりました。川口晴美さんの14冊目の詩集です。前橋文学館では、今年も受賞を記念して受賞者展を開催します。受賞作品がそれぞれ個性的であるように、文学館も毎回展示方法に工夫を凝らして空間を創作してきました。ある時は、灯台をつくり回転するライトによって詩を浮かび上がらせたり、またある時は、巨大な詩集を設置して、耳を付けると詩人の朗読する声が聞こえるようにしました。
さて、今回はどんな仕掛けにしようかと、スタッフが全員が知恵を出し合いました。川口さんの詩は、フィクションとして作り上げるタイプや、現実の問題を取り上げたもの、シスターフッドをテーマに取り組んだもの、あるいはまるで他人に乗り移ってしまったかのような語り口などさまざまですが、読み進めると明らかにひとつの方向が浮かび上がってくる。それが魔女の森に向かっているのか、言葉の森に向かっているのか。ぜひ、詩集を読み、展示を体験し、それぞれの答えを楽しんでいただけると嬉しいです。
2023年03月04日 【歴代萩原朔太郎賞受賞作展】ごあいさつ
今回の展示は、歴代受賞詩人の皆さんに、前橋文学館に帰って来てもらうことだ。 というのは、萩原朔太郎賞は、受賞者展を毎回前橋文学館で行なってきたからだ。 生家で帰りを待つ親のような気持ちが、この企画展示の底に流れているのだ。
「詩人は詩を読んでもらう事で生き続ける」
と、那珂太郎さんが言っていた。 展示する事で詩を甦らせ、思い出を立ち上がらせ、詩の未来を展望する。
そして、受賞した詩の当時を探り、受賞した詩の現在に想いを馳せる。 さらに、萩原朔太郎賞の歴史は詩の歴史の中でどのような役割りを担ってきたのだろうか。そんなことも感じられたらありがたい。30年という道のりを辿ることで、さまざまなテーマが浮き彫りになる展示になればいいと思っている。
お帰りなさい。
そして、いってらっしゃい。
前橋文学館は、これからもずっと、詩の故郷のような存在であり続けたいと思っている。
2022年11月01日 【ふだん着の詩集、よそゆきの詩集-萩原朔太郎著作展】ごあいさつ
書籍も、よそゆきの衣装を着ていたり、ふだん着のままの場合がある
一冊の本との出逢いは、まず纏っている衣装のデザインを目撃する
本展は書籍とデザインの関係をテーマにしたものだ。とくに、一冊
尚、川島先生には、『月に吠える』初版
本展を体験する事で、文字列表現に止まらない書籍のもう一つの魅
2022年11月01日 【すべのものをすてて、わたしはよみがへる。-大手拓次展】ごあいさつ
詩人、というのは肩書きではなく、一つのライフスタイルのことで
大手拓次の短い生涯を辿っていくと、まさに人生を表現に使い切っ
生前詩集は刊行されなかった。
生涯独身であった。
常に病苦に悩まされた。
きちんと会社員を務めた。
それらのことに、表現がまったく侵食されてはいない。そのことが
今回の展示は、薔薇の詩人と呼ばれる拓次の会社員としての活動、
コロナ、戦争、災害、事故、自死など、未来に希望を持てない時代
2022年10月15日 【見よ、友情の翼、高く飛べるを 啄木鳥探偵処展】ごあいさつ
原作があって、それをもとにして映画化、漫画化、アニメ化する場合、いかに原作を生かしつつ、原作を越えるかという難しい作業になるだろう。相手を生かし、かつまた自分を生かす仕事。
アニメ「啄木鳥探偵處」には、多分そのような難事業が幾つも折り重なっている。実在した人物を作家が翻訳、その翻訳を映像に翻訳、役者は声に翻訳する。そんな幾つもの翻訳を通過したものがテレビで放映されたのだ。朔太郎の変容は、この翻訳という表現によるイメージの答えである。
だから、今回の展示は言わば折り重なった翻訳という表現がどのような光りを放ったかを楽しむことが、テーマではないだろうか。
企画実現に際して多くの方々に御協力していただいた。感謝申し上げたい。ありがとうございました。楽しんでいただけたら幸いです。
2022年10月01日 【そこに何をみたか 朔太郎研究会歴代会長展】ごあいさつ
歴代、文学者が研究会の会長を務めているという、極めてユニークなのが萩原朔太郎研究会だ。しかも、歴代の会長のお一人お一人がそれぞれ全国の文学館で企画展示を開催する業績の持ち主である事が最大の特徴だろう。
今回は、言わば、これから企画個展を開催するイントロのような、予告編のようなものと考えて頂ければいいと思う。お一人お一人の膨大な仕事の目次に近づく。それが本展のテーマなのである。
「萩原朔太郎大全2022」のファンファーレを、この朔太郎研究会歴代会長展に感じていただければ幸いです。