和合亮一 “詩の礫「Ladder」(続)”

和合亮一さんが“詩の礫「Ladder」”と題し、新型コロナウイルス感染拡大の現状を踏まえツイッター(@wago2828)にて詩を発表されています。4月5日に続編が発表されました。全編をご紹介いたします。

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詩の礫 「Ladder」 続

窓を叩いてくる、窓を叩いてくる、花粉ではない。ミエザルモノの影。猫の影かもしれない。

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東京からも、北海道からも、フランスからも、アメリカからも、メールが届く、すべてがコロナウィルスの話題になる、見えざる地球。

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東京、なんとか食料は棚に並んでいる。北海道、外出をしないようにしているので近日は落ち着いてきている。フランス、「もはや戦争だ」。アメリカ、「ドンドン感染が広がっている」。先日。ある街のある友は切り際に。「今日は感染者が増えていなかった」「明日もそうだといい」。

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4月1日の前日と当日の朝早くから、ツイッター上に呼びかけがあった。「コロナに関する嘘やデマは止めましょう」と。はっとした。「嘘をつこう」という人がいるのだろうか。この地球にて。

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真っ赤な帽子を、被っている人が、そのまま、家の明かりにとけていく。春の夕暮れ。春。桜。手を開くようにして、悲しみがある、ともに、つながなくてはならない。生きている小さな息が、星を凍らせようとしているから。

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花冷え。無人。駅のホームは、冷たかった、静かな寂しさがとても、寒かった。

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消えるから、闇。明るくなるから、闇。夜と朝をつなぐ、闇。闇と闇をつなぐ、終わる闇、始まる闇。桜。

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夢が、震えているまま、目の前にある、そこを飛び越して、静かに、涙を流しても、いいのさ。

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放置したままの自転車が、たくさん並んでいて、また誰かが、捨てていったらしいのだ、ペダルを踏んだ記憶を。

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小石を蹴って。ふと。ふり返ると。誰もいない。こんなとき。何? 雲のゆくえが。分かるとき。小石を蹴って。自分もまた。この世界で。忘れられている。小石であることに気づいて。また蹴って。

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白い横断歩道、黒い横断歩道、赤い横断歩道、青い横断歩道。

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たくさんの窓がある、あの向こうには、その分だけの、たくさんの椅子がある。

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夕焼けがきみにうそをつく、夕焼けがきみに口裏を合わせる、夕焼けがきみに…。つまらないことは忘れようか、あの真っ赤な色に燃やしてしまおうか。

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夕焼け、忘れ物、赤く、燃えて、何かを、思い出している、宇宙の闇。

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好きな曲があるのはいい。世界中の音を、味方につけている気がするからね。

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春。洗濯をしていると、忘れられたままの心が、洗浄されているのが分かるから、はっとする、たったいま、洗濯機に、しつこく話しかけられているのだ、ドラム式、脱水。

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種子が一つ、球根が一つ、空を映して一つ、水を想って一つ、風を歌って一つ、土の中で呟いている、一つ一つの無言を。

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電線がどこまでも、伸びている。色んな言葉を、忘れたいのか、それを見ているわたしを、空が見ている。

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車の整備が、なかなか終わらない、油まみれになっている、そのような現在に、誰もいない春の道は伸びていく。

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柵の向こうは、春、柵のこちらは、春。

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無人の車両、つり革にぶら下がっているもの、はっきりとしない決断。

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木が静かに燃えるような春山で風が本を読みふけるようにして地上の花の群れをめくっていく。

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真っすぐな道を光らせて、歳月の先を歩く春の犬の影、舌が赤い。

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十九分の時間の遅れで、列車は到着した、春風があまりにも強かったから、花粉に苦しみながら、少年の日の、いつかの野球の試合の、鮮やかな逆転を思い浮かべて、待ち続けていて、良かった。

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新聞を読み耽っていると、繰り返されている文字に気づく、それ、繰り返されているんじゃない、全く同じに見えるけど、それぞれが違う言葉なのだ。「花粉」。

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ふと思い立って「桜は好きですか」と知人にメール、いつまでも返事はない、どうして教えてくれないんだろう、日本も知人も私も、実はそれどころじゃないんだろう、どうして聞いてしまったんだろう、やがて散ってしまう。

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雲は悠々と流れて、TSエリオットの「四月は残酷な月だ」の一節が不意に浮かぶ、そして花などは知らない。

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逝ってしまった人、病床にある人、言葉に出来ない今。花。木。風。雲。黙礼。

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満開の桜の木と自然の脅威。小石が靴の先にある。黙礼。

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「コロナビール」。生産中止になるというニュース。コロナとコロナ。名前が同じだからという理由だそうである、風が窓を叩くので、カタカタと音が鳴りやまない、ああこの音そのものになりたい。黙礼。

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花粉が飛び回って、それは悲しみの花粉で、怒りの花粉で、花粉ではない何かで、マスクをして息を殺して、それでも飛んでくるから、そして季節は確実に過ぎていくから、もう少し、ずっと沈黙して、それでも花は絶やさずに、桜。

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風が窓を叩く、花粉が窓を叩く、世界が窓を叩く、だから祈りつづける、叩いている、叩いてくる、花粉ではない。猫の影かもしれない。

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この時代の僕らの書く詩にも、僕らだけの梯子はある、必ずある。

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知らないうちに、知らない街で暮らして、知らないうちに、知らない誰かになって、知らないうちに、知ってほしくて、知らないうちに、忘れられてしまいそうです。

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笑いながら、笑われているわたしを、笑っている、それに気づいているけど、笑うしかないのだ、笑いながら。

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春のにわか雨が、急に乗りこんできて、隣の席に座った、どこの駅まで、一緒に乗るのだろう、涙が止まらないのだ。

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風にゆれる葉のうえに、光をのせている、そんな気持ちになって、風の中で祈っています、風向きが変わることを、風に吹かれながら。

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「きみの心を揺すぶる音楽は、光る雲の笑い声みたいだね。」

     画像に含まれている可能性があるもの:植物、木、空、花、屋外、自然
(上記の全編は和合亮一氏フェイスブックhttps://www.facebook.com/ryouichi.wagoに掲載されています。)
 
 

 

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