【すべのものをすてて、わたしはよみがへる。-大手拓次展】ごあいさつ

2022年11月01日

詩人、というのは肩書きではなく、一つのライフスタイルのことではないだろうか。表現することだけに人生を使い切る。そういう人を詩人と呼ぶのだ。
 大手拓次の短い生涯を辿っていくと、まさに人生を表現に使い切ったとしか言いようのない詩人像が浮かび上がる。46年間を鮮明に彩っているのは、研ぎ澄まされた感性から生まれる繊細な文字列表現だ。詩人という生き方を選んだ者だけが成し得る仕事ではないだろうか。
 生前詩集は刊行されなかった。
 生涯独身であった。
 常に病苦に悩まされた。
 きちんと会社員を務めた。
 それらのことに、表現がまったく侵食されてはいない。そのことが詩人というライフスタイルを貫いた素晴らしさを感じさせるのである。
 今回の展示は、薔薇の詩人と呼ばれる拓次の会社員としての活動、現代でいえばコピーライターの仕事にも着目してみた。
 コロナ、戦争、災害、事故、自死など、未来に希望を持てない時代の雰囲気にあって、常に死と向き合っていた拓次の強さを秘めた繊細な感性、豊かな言語表現と出会うことで、少しでも明るい気分を取り戻していただければと、願っています。

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