【さくたろういきものずかん  朔太郎の世界を闊歩する生物たち】ごあいさつ

2021年06月19日

  地球に生息している生き物は、ざっと八百七十万種いるのだそうだ。もちろん、調べられないから実数は分からない。深海など調査は難しそうだ。

 地球に限らない。人間の身体の中にどれだけの生き物がいるのか、カウントするのも難しそうだ。腸の中だけでも百兆匹の生物がいるという。人間は沢山の生き物たちと共存して生きているというわけだ。

 そんな仲間の生き物を、詩人はどのように見てどのように表現しているのだろうか。

 朔太郎の第一詩集『月に吠える』には、鼠、亀、雲雀、犬、蛙、鵞鳥、蛤、浅利、みじんこ、バクテリア、猫など二十以上の生き物が登場する。それらの生き物を列記してみると、詩人が詩というものをどのように捉えていたかが炙り出されてくる。詩の中では、生き物が実態を離れて別の何かに変容するのだ。犬が犬ではなく心模様に、猫が病名に変身する。言わば、詩人は言葉と意味を引き離し、言葉の能力の裾野を広げる作業をしているのである。ボードレールの「詩はただ詩のための表現である」というのはそのことを言っているのだろう。詩人にとって、言葉は手段ではなく目的なのだ。

 本展は朔太郎コンコルダンスの入り口に立って、まず「生き物」を手始めに試みたものだ。大人は意味の世界から、こどもはゲームとイメージの世界から入場して、詩人と生き物との関係を楽しんでいただけたら幸いです。

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