ごあいさつ―パーティー会場のように
母、萩原葉子を見送って15年が過ぎた。瞬き2、3回しただけのあっという間の時間だった。84歳で旅立ったから、生きていれば今年100歳ということになる。
その生誕100年という節目に、生まれ故郷で里程標を建てるかのような「萩原葉子展」が開催されることになった。
今回の展示は、以前の展示と違い、本人が大量に残したコラージュのような作品をライトアップしている。生前、それらの作品群を一同に展示したことはなかった。
並べてみると、意外にもユーモア溢れる造形作家の一面が浮かび上がってくる。文章よりもずっと自由で天衣無縫な振る舞いが面白い。私たち親子に何かしら共通する気質があるとしたら、平面作品は文章との対峙とは大きく異なり、伸びやかに無邪気に取り組んでいることではないかと思う。
生前、一度だけ一冊の本を一緒に書いた。私はあまり乗り気になれない企画だったけれど、何か記念になればと、母親が積極的に進めて実現した。今から考えれば、あの本が母親の遺言のようなものだったのかも知れないと思う。
いや、この展覧会そのものも、実は母親の遺言の展示なのかもしれない、と思えてくる。
まあ、私としては、空の彼方で、母親がはにかみながら喜んでいると信じるしかない。生前、葬儀もしのぶ会もやらなくていい、というメモ書きを手渡された。あれだけ人を呼んで自分が踊るパーティーを開くのが好きだったのに、死後はひっそりと人に迷惑をかけず旅立ちたかったのだ。
だから今回の「萩原葉子展」も、母親が踊りを披露する場所だと思うことにした。
入館者の皆さまにも、パーティーに参加しているように楽しんでいただけたら幸いです。