現在開催中の企画展
2019年05月25日
新元号に改元されたことが記憶に新しい5月も、気づけば終わりに差し掛かってきました。近頃の前橋はやや強い日差しが降り注ぎ、初夏の気配を感じさせています。広瀬川周辺の木々の新緑も、からりとした風に吹かれて気持ちよさそうに揺れています。
新緑は五月の貴公子です。新緑はワルツです。そしてクラリオネツトの風景です。
『旅行と文芸』(大正11年6月号)「新緑郷」より 萩原朔太郎
日本の季節の中では、初夏と晩秋がいちばん楽しく、絶好の季節のやうに思はれる。特に桐の花の咲く五月頃の季節、即ち所謂「初夏新緑」の候は、妙に空気が甘ずつぱく、空が透明に青くすんで、万物の色が明るく鮮明に冴え、日本画的であるよりも、むしろ洋画的風物を思はせる。物の匂ひや肌ざはりやが、最も鋭敏に感じられ、官能の窓が一時に開放されるのもこの頃である。僕はその頃になると、不思議にロマンチツクの詩情に駆られ、何所かの知らない遠い所へ、ひそかに旅をしてみたいやうな、夢見心の郷愁に誘はれる。何がなし初夏の季節は、不思議に浪漫的の季節であり、他の日本的な四季とちがつて、例外的に西洋臭い情緒をもつた季節である。(後略)
「初夏の詩情」 萩原朔太郎
「旅上」「五月の貴公子」など、「五月」が多く登場する朔太郎の作品。さわやかな初夏の描写の背景には、こういった印象も反映されているのかもしれませんね。
さて前橋文学館では、3階オープンギャラリーにて約2年ぶりとなる萩原朔美の仕事展を開催中です。
今回は〈萩原朔美の仕事Vol.2 定点観測展〉として、萩原朔美前橋文学館館長(映像作家・エッセイスト)による幅広い表現の世界をご紹介。本展では特に、長年にわたるライフワークである定点観測写真を取り上げ、過去から現在へとうつろう時間の概念をとらえた作品の数々を展示します。こちらは2019年4月20日(土)から6月23日(日)までの会期となっております。
また、4月27日(土)から6月30日(日)まで2階展示室において企画展〈詩の未来へ―「現代詩手帖」の60年―〉も同時期開催中です。2019年6月に創刊60周年を迎える詩雑誌「現代詩手帖」、その軌跡をたどりながら、いつも私たちのそばにあることばについて、これからの「詩の未来」について考えます。現在進行形で活動を続ける雑誌を取り上げる、前橋文学館初の試みです。
朔太郎も認める絶好のお出かけシーズン。お近くを散策の際はぜひお立ち寄りいただければと存じます。