ばらのシーズンの到来です

2019年05月18日

 前橋市の花でもあるばらの綺麗なシーズンが巡ってきました。暖かくなり、新芽がぐんぐんと伸びていた株が、大きく鮮やかな花を咲かせてくれる姿を心待ちにしていた方も多いのではないでしょうか。敷島公園ばら園では、本日5月18日(土)より6月9日(日)まで〈春のばら園まつり〉が開催されています。目印となっているポスターには、1923(大正12)年出版の萩原朔太郎の詩集『青猫』より、「春宵」の一節が採られています。

 

「春宵」

嫋(なま)めかしくも媚ある風情を

しつとりとした襦袢につつむ

くびれたごむ(※)の 跳ねかへす若い肉体(からだ)を

こんなに近くに抱いてるうれしさ

あなたの胸は鼓動にたかまり

その手足は肌にふれ

ほのかにつめたく やさしい感触の匂ひをつたふ。

 

ああこの溶けてゆく春夜の灯かげに

厚くしつとりと化粧されたる

ひとつの白い額をみる

ちひさな可愛いくちびるをみる

まぼろしの夢に浮んだ顔をながめる。

 

春夜のただよふ靄の中で

わたしはあなたの思ひをかぐ

あなたの思ひは愛にめざめて

ぱつちりとひらいた黒い瞳(ひとみ)は

夢におどろき

みしらぬ歓楽をあやしむやうだ。

しづかな情緒のながれを通つて

ふたりの心にしみゆくもの

ああこのやすらかな やすらかな

すべてを愛に 希望(のぞみ)にまかせた心はどうだ。

人生(らいふ)の春のまたたく灯かげに

嫋めかしくも媚ある肉体(からだ)を

こんなに近く抱いてるうれしさ

処女(をとめ)のやはらかな肌のにほひは

花園にそよげるばらのやうで

情愁のなやましい性のきざしは

櫻のはなの咲いたやうだ。

(※)は傍点(``)付

 

 現実感の欠如した幻想的な世界を舞台に、処女(をとめ)を匂い立つ花園のばらや櫻のはなに喩え、詩上の存在である処女(をとめ)の近さ、親しさに酔いしれる喜びが綴られています。詩全体を通して官能的な雰囲気を醸しながらも、柔らかい手触りへの新鮮なときめきややすらぎを伝え、どこかあどけない印象をも持った作品だと感じます。

 敷島公園敷地内には萩原朔太郎の「帰郷」詩碑もあります。散策の際は、ぜひお立ち寄りください。

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