文学館のバレンタインデー
2018年02月14日
本日はバレンタインデー。文学館前の朔太郎さんも、愛のこもったプレゼントに囲まれています。台座にあるプレゼントの箱は、文学館向かいの幼稚園のこどもたちがにぎやかに飾りつけてくれました。モテモテな朔太郎さん、よかったですね。
館内1階の朔くんもハートのプリント帽子をもらってあたたかそうです。
また、2月14日は室生犀星が朔太郎を訪ねて初めて来橋した日でもあります。大正3(1914)年のことで、3月7日までの間、前橋公園からほど近い一明館に滞在しました。
大正2年の春の終わり頃、『朱欒』に掲載されていた犀星の「小景異情」という小曲風の作品に感動した朔太郎が、まだ見ぬ犀星に熱烈なファンレターを送ったことにより交流が始まります。しかしその間に互いに幻想を抱いていたようで、実際に逢ってみてそのギャップに驚くやら、絶望するやら…。そんな二人の初対面の印象を綴ったエピソードは有名です。
郷里の停車場で始めて逢つた時の室生は、詩から聯想してゐたイメーヂとは、全でちがつた人間であつた。私は貴族的の風貌と、青白い魚のやうな皮膚を心貌(しんばう)に画いて居た。然るに事実は全く思ひがけないものであつた。妙に肩を怒らした眼のこはい男が現はれた時、私にはどうしてもそれが小曲詩人の室生犀星とは思へなかつた。
萩原朔太郎「室生犀星の印象」『秀才文壇』大正7年6月号より
前橋の停車場に迎へに出た萩原はトルコ帽をかむり、半コートを着用に及び愛煙のタバコを咥(くは)へてゐた。第一印象はなんて気障(きざ)な虫酸(むしず)の走る男だらうと私は身ブルヒを感じた
室生犀星「わが愛する詩人の伝記」『婦人公論』昭和33年3月号より
第一印象こそ最悪だったふたりですが、詩という共通の話題もあり、次第に打ち解けあって、ついには生涯にわたる親友として交流が続きました。「室生犀星の印象」は、次のように続きます。
かういふわけで、室生の最初の印象は甚だ悪かつた。容貌ばかりでなく、全体の態度や、言葉づかいや、言行からして、何となく田舎新聞の記者とかゴロツキ書生とかいふ類の者を思はせる所があつた。然るに不思議なことは、その後益ゝ彼と親しんでくるに従つて、彼の容貌や、そのユニツクな人格や態度が、奇体に芸術的な美しさを以て見られてきた。「愛とは美なり」といふことは、実際どんな場合にも事実である。彼と私との友情が如はるに順つて、始め不快であつた彼の怪異な風采が、次第次第に快美なリズムに変つてきたのは不思議である。
ふたりの親密な交流につきましては、過去の前橋文学館の企画展図録『萩原朔太郎・室生犀星の交流』に詳細にまとめてあります。現在ショップでのお取り扱いはありませんが、ご興味のある方は4階閲覧室にてご確認ください。