山の日
2017年08月11日
今日は祝日「山の日」ですね。本日から3連休という方もいらっしゃるかと思います。全国的にあいにくのお天気ですが、いかがお過ごしでしょうか。前橋文学館周辺は少しひんやりとしていました。
朔太郎の詩集『月に吠える』の中にも、山を題材とした作品として「山に登る」がありますのでご紹介します。
「山に登る」 旅よりある女に贈る
山の頂上にきれいな草むらがある、
その上でわたしたちは寝ころんで居た。
眼をあげてとほい麓の方を眺めると、
いちめんにひろびろとした海の景色のやうにおもはれた。
空には風がながれてゐる、
おれは小石をひろつて口(くち)にあてながら、
どこといふあてもなしに、
ぼうぼうとした山の頂上をあるいてゐた。
おれはいまでも、お前のことを思つてゐるのである。
「わたしたち」が「おれ」へ、「寝ころんで」が「あるいて」へと変化していることから、一つの詩の中に明確な時間的隔たりがあり、前半部分と後半部分で前置きなく場面の転換が起きていると考えられます。「わたし」が「おれ」へと変化する理由は不明ですが、後半部分は、どことなく荒寥とした印象を受けます。
「おれはいまでも、お前のことを思つてゐるのである。」と言わしめた「ある女」とは、自筆草稿に見られる「E女へ」という端書から朔太郎が恋した女性・エレナ(馬場仲子)がモデルであると考えられています。草稿の中には他にも“おまへに逢ひたくなるのである。”“おれはあの人(ひと)を恋してゐたのだ”“おまへのことを思ひつめてゐるのである”などと繰り返し推敲した形跡がみられ、朔太郎が最後の一行を決定するのに苦心したであろうことがうかがえます。そうして世に出でた結びの一文は、不思議な切実さを持って読者の心に迫ります。
前橋文学館では、「山に登る」も収録された詩集『月に吠える』100年記念展をただいま実施中です。『月に吠える』執筆中の朔太郎の心境を、手紙や自筆原稿などの展示からも感じてみてくださいね。